中国紙「経済参考報」は30日付で、大気汚染など深刻な環境破壊で、自国が「十面“霾”伏」とする論説を発表した。有害物質による霧の呼称、「霧霾(ウーマイ)」を、覇王と称せられた項羽が滅亡した「垓下の戦い」で、相手の劉邦側がとった「十面埋伏(シーミェン・マイフー)」と呼ばれる作戦になぞらえた(解説参照)。同論説は、環境汚染の原因は「粗放な経済発展モデルからなかなか抜けさせないこと」と指摘した。

  同論説は「霧霾」を2013年における経済ホットワードのひとつとして取り上げた。専門家による「われわれが生きるために依存せねばならない土地、水源、天空をすべてゴミ箱にしてしまった」などの危機感あふれる言葉を紹介。

  クリスマス・イブも広い範囲にわたって大気汚染による霧が発生したことで、庶民がインターネットで発表した「ただ声を聞くのみで人の姿が見えぬ、忘れがたきクリスマス」という、漢詩をもじった皮肉も掲載した(解説参照)。

  大気汚染が特にひどい地域として河北省を紹介。四川省出身で、仕事のために河北省都の石家荘市に定期的に来る男性の「石家荘では金が稼げるけど、命はもっと大切」との言葉を紹介。同男性は今年(2013年)で石家荘市にある企業との契約が終了するが、石家荘に行くたびにのどの状態が悪くなるので、契約延長はしないという。

  論説は、「わが国の国内総生産は全地球の10.48%を占めているが、セメント消費は60%、鉄鋼は49%、エネルギーの20.3%を消耗している」と、産業の効率が極めて悪いと指摘し、「粗放な経済発展方式は、産業構造を不合理にしているだけでなく、大量の大気汚染物質を発生させている」と論じた。

  さらに、中国で「粗放な経済発展モデル」が定着した一因として、地方におけるGDP成長率が、各地方の行政責任者の業績として重んじられていたことを指摘。「GDPだけを追求し、土地を犠牲にし、環境を犠牲にし、庶民の利益を犠牲にして、奇形なGDPだけを追求した地方政府も珍しくはない」と批判した。

  中央政府はすでに、地方の行政責任者をGDPで評価することをやめると発表した。しかし経済参考報は「地方政府、特に県クラスの地方政府にとって、深刻な汚染を発生させている企業の多くは高額納税者だ。地方政府は口先ではGDP優先の考えを放棄すると言っているが、自らの肉を絶つことができないでいる」と指摘した。

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◆解説◆
  「十面埋伏」とは、「10カ所に伏兵を配す」あるいは「相手を誘導しつつ各所に配した伏兵で戦力を漸減させ、最終的に殲滅(せんめつ)する」戦法を指す。漢の高祖(劉邦)が「垓下の戦い」の戦いで項羽を滅亡させた際に使った作戦で、三国志演義では、曹操が袁紹軍を壊滅させた倉亭の戦いで「十面埋伏」の作戦が奏功したとされている。

  「十面埋伏」は、中国の伝統楽器である琵琶の独奏曲としても有名。さらに、2004年の中国映画の題名になっており(張芸謀監督。英語題名はLOVERS)、中国人にはなじみのある言葉だ。

  「ただ声を聞くのみで人の姿が見えぬ」は王維(701-761年)の五言絶句「鹿柴」による。原詩は「空山不見人 但聞人語響 返景入深林 復照青苔上(空山、人を見ず ただ人語の響くを聞くのみ 返景深林に入り また青苔の上を照らす)」。鹿柴は王維の山荘があった場所。中国では小学校2、3年で学び、暗唱を求められることが一般的だ。(編集担当:如月隼人)