ずっと気になっていたことがある。スーパーや薬局などの、「980円」「1980円」という類の中途半端な価格設定についてだ。値段は高くなってしまうが、バシッと「1000円」と打ちだしてくれた方が、買う側としては気持ちがいいような気がする。おつりが出るとお得感がなくもないが…。

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 そんな疑問を解決してくれたのが、『バカのアイデアだけが世界を変える!』(木村尚義/宝島社)という書籍。なんでも、この奇妙な価格設定が行われ始めたのは、アメリカの小売店でレジが登場したころなのだとか。実はこちら、従業員がレジのお金をちょろまかすのを防ぐために生まれた対策だったという。確かに、お釣りを出す必要がなければ、レジをわざわざ開ける必要もない。お札をそのままポケットへ…などということも少なくなかったらしい。小売店の店主たちが編み出したアイデアの勝利だ(日本とは関係ないのかもしれないのだが)。

 同書では、上記のような今まで成功を収めてきたひらめきの実例から、“ラテラルシンキング(水平思考)”とはどんなものなのかを紹介している。この“ラテラルシンキング”とは、「締切がある。48時間休憩ナシでひたすらやらないと間に合わない…。さてどうする?」となったときに、「どうにかしてのばしてもらう!」というように、AかBかの2択という前提条件を無視してCを選ぶという抜け穴的発想のことである。

 実例には、46年間大赤字だったのにもかかわらず、ビールを作り続けたというサントリーの発想や、たまたま掘り当てた臭い水に石油という価値を付けたアメリカ開拓時代の話、また、ゆとり教育はどうして失敗したのかといった失敗例も挙げられており、読み物としても楽しめる内容ばかり。「くだらないかも?」というひらめきこそが、世界を動かしてきたことがわかる。

 また、『ブレイクスルー ひらめきはロジックから生まれる』(木村健太郎・磯部光毅/宣伝会議)も、新たな発想が生み出せそうな1冊。

 ブレイクスルーとは、「創造的な思考で、壁を突破し、結果、課題が解決されること」を指す。いわゆる組織で通用する感覚的なアイデアのことだ。著者は博報堂ケトルの共同CEOである木村氏。彼はこれまで80を超える国内外の広告賞を受賞した経験を持つ、説得力のあるお方だ。

 ブレイクスルーは、課題が解決したゴールイメージである「未来図」、それを実現するために障害となる壁を打ち砕く解決アイデアの「突破口」、それはどんな製品やサービス、言葉なのかという「具体案」の3つが組み合わさることがカギなのだという。なんでも、それはどのような順番でも起こり得るものなのだそう。同書ではさらに、ブレイクスルーを起こすために必要な8つの思考ロジックを、寓話や豊富な図、実例とともに解説してくれている。

 ビジネスマン、研究者、クリエイター、学生、さまざまな場面で今も昔も求められているのが企画力。ほかの人にはない発想だったり、普通とは違った捉え方というものこそ、社会を変える原動力になったりする。発想はセンスと思われがちだが、学ぶことで鍛えることができるようだ。これらの本を読んで、ひらめき力をあげてみては?

文=廣野順子(Office Ti+)
ダ・ヴィンチ電子ナビより)

『バカのアイデアだけが世界を変える!』(木村尚義/宝島社)