iwasaki 総務省は2011年4月6日東日本大震災に関わるインターネット上の「流言飛語」について、表現の自由への配慮をしながら「適切に対応」するよう、電気通信事業者関係団体に要請した。しかし、「デマ」が好ましくないのは確かにしても、この"要請"は「言論統制」や「ネット規制」につながりかねないのではないか。果たして「流言飛語」の基準はどこにあるのか――4月29日放送の「ニコニコニュース+α 『デマ削除要請』は言論統制なのか?~流言とインターネットを考える~」では識者たちが討論。雑誌『放送レポート』編集長の岩崎貞明氏は、たとえ事実でも「『官邸が把握してないから、それはデマだ』と言えるようになってしまう」と指摘した。

 総務省の要請は、複数の省庁の官僚から構成される「被災地等における安全・安心の確保対策ワーキングチーム」の決定を追認する形で出されている。その内容は、

「特に、インターネット上の流言飛語については、関係省庁が連携し、これらの実態を把握した上で、インターネット利用者に対して注意喚起を行うとともに、サイト管理者等に対して、法令や公序良俗に反する情報の自主的な削除を含め、適切な対応をとることを要請し、正確な情報が利用者に提供されるよう努める」

 というもの。しかし、名誉棄損児童ポルノ著作権侵害などの「違法」なものには、法的な基準があるのに対し、「公序良俗に反する」ものは、その判断が曖昧にならざるを得ない。弁護士の落合洋司氏は「本質的に問題なのが、根拠がないとか虚偽だとか、誰が判断するのかということ」と述べる。

 既に警察庁は、サイバーパトロールなどにより情報を把握した上で、悪質なものに対してはサイト管理者等に削除を依頼しているという。しかし、その内容はといえば、明らかな誤情報がある一方で、被災地で商品の略奪や火事場泥棒が起きているといった「事実」も含まれているとされる。治安への不安につながるからという理由なのだろうが、「流言飛語」がいかに恣意的な解釈を許すかを示した形だ。

 ジャーナリストの上杉隆氏は、「事実であるのに流言飛語と認定して、削除依頼をされたら、それに応じざるを得ない。完全に言論統制だし、憲法違反だと思うんですけど」と語る。

■政府の「安全デマ」は問題にならないのか?

 ワーキングチーム構成員の一人である警察庁生活安全局長の樋口建史氏は、4月13日の衆議院法務委員会に出席し、「原発絡みの根拠のない情報はデマ情報といって差し支えない。そういうものがネット上にあったと認識している」と発言しているが、岩崎氏は、

「当局が把握していない情報は、デマだとか流言飛語だという話になると、『官邸が確認していないからそれはデマだ』と言えるわけですよね。結果的にそれが(デマでなく)事実だったとしても」

 とし、公的機関がデマか否かの「根拠」になっても、正確性は保証されないと語る。震災の被害について、政府はなるべく過小な発表をしてきたが、これが後に修正・訂正され「安全デマ」だったと判明したケースは少なくないからだ。逆に、原発の放射能問題など、「不安を煽るな」と批判され、「危険デマ」と認定されていたものが、結果的に当たっていたというケースも数多くある。

 これを受けて上杉氏は、

「政府や企業が自己防衛のために(デマや流言飛語の削除を)やるのは多々あるんですよ。だけど、普通どこの国もそれに対して、ジャーナリズムやメディアが『嘘をついているんじゃないか』と追及するんですね。日本だけが追及しないんですよ。これは決定的に大問題」

 と、まとめた。

◇関連サイト
・[ニコニコ生放送]「流言飛語の定義」部分より再生 - 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv48011453?ref=news#01:01:30

(野吟りん)

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