テレビや新聞、ネットでは、毎日のように何らかの「死」が伝えられている。しかし、それで自分が死を身近に、リアルに感じているかと言われれば疑問だ。多くの人は実際に自分のみに「死」が近づいてくるまで「死」を真剣に考えたりしないのではないだろうか。

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 『何歳まで生きますか?』(前田隆弘/パルコ)は、そんな「死」について、すなわち死生観をさまざまな分野で活躍する11人にそれぞれ聞いたインタビュー集だ。「死」にまつわる本は、年配向けだったり、あるいは闘病記的な、間近に死に迫った人にまつわるものが多い。しかし、本書は違う。インタビューしているのは向井秀徳、渋谷慶一郎、雨宮まみ、入江 悠など全員30代。そして筆者もまた30代。今のところ誰にも死の影は目前にない。ちょうど人生の中盤に差し掛かったあたり、つまり人生の「途中経過」における死生観が語られている。

 たとえば取材で、死と隣り合わせの現場にもいくつも立ち会ってきたノンフィクション作家の石井光太。なぜ「死」を追い求めるのかという質問に対しては、「死についてこだわりがあるわけではなくて、僕は生きている人間を書きたい。“死”を書くのはあくまで“生”を書くためにすぎない」という彼。毎回「死」や「貧困」の現場へ踏み込むのは、「死」に限りなく近い部分にある「生」の美しさを感じているから、とも話している。

 また、漫画家の久保ミツロウは、現実に起こった死で最も大きな影響があったものとして、レイ・ハラカミ氏の名前を挙げている。知人が急にいなくなってしまうことの寂しさに直面した心情や、それでも守らなければならない締切や仕事に対して抱いた疑問や葛藤、そして喪服や香典袋を用意しておらず、焦って百貨店へ駆けつけた話までも赤裸々に話している。

 こうした経験をして感じた彼らの「死生観」。共通していたのは説教くさい人生論でもなく、お涙ちょうだいストーリーでもない、人間が「死」に対して抱くさまざまな本音が垣間見えること。人生の途中経過である彼らは、「死」どころかまだ「生」についても模索している。その状態で向き合った「死」。そこには、死期が迫った人間とはひと味違った「死」そのものへの素朴な疑問や戸惑いがある。「死」をまだ漠然としか捉えられない人々が「死生観」を考え始めるには、最適な1冊かもしれない。

文=池尾 優
ダ・ヴィンチ電子ナビより)

『何歳まで生きますか?』(前田隆弘/パルコ)