12月は忘年会のシーズン。その二次会、三次会でよく利用されるのが「カラオケボックス」だ。密室で防音の部屋では他のグループを気にせず大声で歌を唄って一年の憂さ晴らしができる。また、お酒やおつまみも頼める。

 そのカラオケボックスは、1985年に国鉄(当時)のコンテナを改造した設備が岡山県の国道沿いに置かれ、営業を開始したのが第1号とされる。盛り場のビルのフロアにカプセル型防音個室で営業するタイプが広まったのは平成に入ってからだ。

 「カラオケ人口は日本の総人口の半分」といわれるほど需要は大きい。通信カラオケの普及で各室にカラオケソフトが不要となり、坪効率(床面積当たりの収益性)の良いビジネスとして市街地だけでなく郊外のロードサイドにも林立するようになった。

 カラオケボックスは、「カラオケ文化」とともに韓国、中国、東南アジアにもひろまっている。しかし、国内市場に目を向けると、カラオケボックスの施設数、ルーム数、市場規模は、1996年ピークに徐々に減っている。

【カラオケボックスの市場規模】

 ピーク時の1996年と比べ、施設数は約6割、ルーム数は約8割、市場規模は約6割まで縮小。都市部、郊外、地方で、大手業者の施設大型化やサービス競争についていけずに中小業者の廃業が相次いだことが、その要因といわれている。

 今回は、このカラオケボックス業界について、キャリコネに寄せられた各社社員の声を見ながら分析していこう。


カラオケボックスは娯楽の「場所貸し業」

 カラオケ大手には、給食業から進出した「レストランカラオケ・シダックス」のシダックス(子会社のシダックス・コミュニティーが運営)と、業務用カラオケ機器販売から進出した「ビッグエコー」の第一興商が二大勢力として君臨する。2社はともに上場企業だ。

 2強に続くのが、「カラオケ館」を運営するビーアンドブィ、「カラオケ本舗まねきねこ」を運営するコシダカホールディングス(HD、上場)、「カラオケルーム歌広場」「カラNET24」を運営するクリアックスだ。

 そのほか、「コート・ダジュール」を運営するAOKIホールディングス(HD)の子会社であるヴァリック、「カラオケバンバン」を運営するシン・コーポレーション、総合アミューズメント施設「ラウンドワン」内でカラオケルームを運営するラウンドワン(上場)、「カラオケの鉄人」を運営する鉄人化計画(上場)などもある。

 カラオケボックスは、フロントで利用を受け付けて飲食物を提供できる「場所貸し業」という意味ではマンガ喫茶やインターネットカフェに近く、兼営している会社もある。

 10室程度までの店舗では、正社員の店長1人が金銭管理、販売促進、飲食物、設備など店のマネジメントと、パート・アルバイトの採用や勤務管理を行っている。

 そして、彼らにフロント業務や配膳、清掃、設備メンテナンスなどの仕事をさせている。そして、業務は多忙を極めるようだ。コシダカHD、20代後半の男性社員が、こう言う。

 「現状、各店舗基本社員1人の体制が多く見受けられ、社員不在時が多くありトラブル発生後の対応が遅れてしまう事が多々ある。店長・副店長で各店2人は社員が欲しいと感じられます」 12月のような繁忙期は、店長は非番でもトラブルで呼び出されたりして自分の時間が取れないと言う。トラブルの後始末が朝6時までかかった後、ただちにその日の開店準備にかかることもあり、「若くなければやっていける仕事ではない」という声もあった。


2強の報酬は悪くないが、それ以外は“シビア”

 では、カラオケボックスで働く社員の給与はどうなのだろうか。二大勢力のシダックス、第一興商の社員は「悪くない」と言う。

 「時間が長いことを除けば報酬は割と多いほうである。しかし、時間当たりの給料換算となるとちょっと微妙な数字になる。査定基準は店舗売り上げによる」(シダックス・コミュニティー、20代前半の男性契約社員、年収350万円)

 「一般事務で他社と比較しても給与面では充実していた」(第一興商、20代前半の男性社員、年収288万円)

 しかし、業界でも下位になれば、業績同様、給与水準もシビアになってくるようだ。

 「会社全体の売上げが立たないために、社員の給料がどんどん下がっており、若手社員が育たない(辞めてしまう)。査定方法が完全売上げのみなので売上げが立たない=下がる。会社の将来性が見えない」(クリアックス、20代後半の男性社員、年収312万円)

 「内定時に提示された年収と、かなり開きがあった。勤務期間が1年とは言え、賞与が5万円というのはないと思う。また、残業や休日出勤の手当も請求できなかったので、労働量と照らし合わせると低すぎる」(鉄人化計画、20代後半の女性社員、年収245万円)

 客足が戻って業績が回復するまでは、期待はできないというところだろうか。


「忙しい」のもつらいが、「ヒマ」なのもまたつらい

 各社の社員の声を拾うと、ほぼ共通しているのは、改めて、カラオケボックスの店長は“とにかく忙しい”ということだ。来店が少ない時は他店の応援にも駆り出されると言う。

 「支配人クラスであれば、給料など優遇されるようですが、なにせ使う時間がありません。忙しすぎて自分の店舗の駐車場で仮眠をとらなければいけない、といった店長さんも知っています」(シダックス、10代後半の男性社員)

 「とにかく休みが少なくまた拘束時間も長いので有給を期待していたが、とてもではないけれども使える雰囲気ではなかった」(ビーアンドブィ、20代後半の男性社員)

 さらに、人手不足が1人当たりの業務量過剰につながり、休めずに肉体が限界を超えて退職者が出て定着率が悪くなり、それがさらに人手不足を招くという悪循環になっていると言う。

 だが、ヒマならヒマで、それもつらい。

 「すべてが数字の世界。繁華街店は自然と集客が上がり、売上げも伴うが地方の郊外店は悲惨。地方に飛ばされたら終了。売り上げが1桁の日もあり。15時間近く店を開けてて1桁の日は泣きたくなります。どこに営業したらよいのか」(シダックス・コミュニティー、20代後半の男性社員)

 その一方で、こんな会社もある。「鉄人化計画」は、社名もユニークなら、経営者も社員も相当ユニークなようだだ。

 「社長が定期的に漫談を一般社員向けに行います。とてもためになる話が聞けてわりかし人生観かわります。あと徹底的に経営学を学ばせてくれる会社でもあるので将来独立をしようと考えている方にはいい会社なのかもしれません」(鉄人化計画、20代後半の男性社員)

 「部長が二日酔いで遅刻してきたり。現場はまた違うと思いますが、本社は年齢層が高く、覇気が全く感じられませんでした」(鉄人化計画、20代後半の女性社員)

 硬派っぽい社名とは正反対の、昭和のサラリーマン喜劇映画のようなユルユルぶりは、かつて急成長してザクザク儲かった体験がそうさせているのだろうか。鉄の意志で意識改革をしないと、鉄槌が下るだろう。


「1人カラオケ」は起死回生の決め手にならない

 バブル経済とともに急拡大した後、長期にわたって低落傾向が続くカラオケボックス業界。それに歯止めをかけようと、あの手この手で利用の拡大を図っている。

 その中で「奇手」とも思われるのが「1人カラオケ」だろう。カラオケをひとりで歌いたいという「おひとりさま需要」は女性を中心に意外に根強いという。

 「まねきねこ」のコシダカHDは一人カラオケ専門の新業態「ワンカラ」を東京と仙台に6店を展開。「イチカラ」(ジャンボカラオケ広場グループ)などの競合店も登場した。

 1時間500円からという低料金は、サービス業の会社がブラック企業化する大きな原因「利益なき繁忙」に拍車をかけそうだが、場所貸し業としては「空室を抱えるよりマシ」ということなのだろう。

 また、最大手のシダックスでは、店舗内で空手やヨガ、フラワーアレンジメントなどのカルチャー教室を開催。カラオケ利用につながりそうなボイストレーニング講座も行っている。

 これには、地方のカラオケボックスであれば、「不良のたまり場」「性犯罪や買春の温床」「飲酒運転を助長する」などとあまり評判がよろしくないので、地域のコミュニティーに溶け込んで「健全娯楽」をアピールするという狙いもありそうだ。

 しかし、そうした利用拡大策は客足回復の大きな決め手にはなっていない。主要顧客層だった若者人口が少子化の影響で減少し、カラオケボックス利用者は高年齢化。そして、ソーシャルゲームなどの新しい娯楽が次々と登場し客足を奪っている。

 また、楽曲で大ヒット曲が減って、カラオケで歌いたい歌がなかなか出てこないことも一因としてある。AKB48のように見て聞いて“イジって”楽しむほうに曲のトレンドがシフトしているからだ。

 こうした状況を受け、カラオケボックス業界では店舗を大型化、低料金化、飲食や他の娯楽との複合店舗化、ポイント特典による会員の囲い込みなど、打つべき手をすでに打っている。

 それでも来店数の減少は止まらない。かつて「国民的娯楽」と呼ばれたカラオケだが、市場低迷を打破するための苦闘もむなしく、前途には光が見えてきていない。

 


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