「かねのなるきじゃないのに。さいきん、いっぱつやのきもちが、わかってきた。ながいき、するぜぇ~。ほんとうにこれでおわったら、わいるどになっちゃうから。ほそく、ながくでいいです。ちょうしにのると、だめだから。る~び~かけをするまでは、きえないぜえ~」

どこか冷静さが漂う発言。誰の言葉かというと、東京ヤクルトスワローズのマスコット「つば九郎」が、「サンスポ」でスワローズを担当している長崎右記者に漏らした言葉である。実は最近、つば九郎の人気が20~40代の女性を中心に急上昇中だ。発売した「つば九郎」の書籍、DVD、CDが異例の大ヒット。まさかの「笑っていいとも」出演で、タモリさんとも共演したつば九郎。まさに、飛ぶ鳥を落とす勢いの鳥(ツバメ)で活躍中のつば九郎の人気の秘密について、つば九郎の本「みんなで、えみふる! 人生が楽しくなる80個くらいの言葉」(飛鳥新社)の編集を担当された五十嵐麻子さんにお話を伺った。

――当然、五十嵐さんは元々ヤクルトファンで…?
「実は、ウチの家族はみんな阪神ファンで(笑)。阪神の試合を観戦しようと神宮球場に行ったら、つば九郎のことがすごく気になったんです。とにかくよく動くし、ファンサービスがすごくて。カープファンの知り合いも『つば九郎はすごい』っていう話をしていたくらいです。しかも、つば九郎は時々、街を散歩しているっていう話を聞いたので、昨年の夏に散歩しているところを見に行ったんです」

つば九郎名物「つばさんぽ」

――つば九郎が街を散歩してたんですか?
「そうなんです。つば九郎がブログで告知していたので行ってみたら、20~40代の女性ファンが大勢集まっていて衝撃的でした。商店街で聞かれた質問に対して、スケッチブックマジックで文字を書いたり、じゃんけん大会をやったりしていて、すっかりファンになってしまったんです。(写真参照)それである日、ブログを見ていたらつば九郎が、松岡修造さんが作った名言集みたいに、自分も『人生が楽しくなる80個くらいの言葉』っていう感じの本を作りたいという旨のことが書いてありまして、それで本を発売しませんかとつば九郎に提案したんです」

――タイトルは、つば九郎が考えたんでんすね!
「そうです。ちなみに『えみふる』は、つば九郎が何度かイベントで訪れている愛媛県の商業施設の名前で、『笑顔がいっぱい』という意味です。お忙しいのに、本文はご本人ならぬ、ご本鳥が書き下ろしてくださいました。19年間に渡って学んだ仕事術や座右の銘、普段の仕事ぶりなどを余すところなく紹介しています。つば九郎、いや、つば九郎先生は文体がユニークで、ブログにも80年代を彷彿とさせる言葉がたくさん出てきますが、それが妙に面白くて、そういったところも30~40代の皆さんに好評なようです。可愛らしい顔をしてますけど、ビールを『る~び~』、デリシャスを『しゃすでり』、西麻布を『ぶ~あざ』って書いてたりで(笑)」

――なんだかバブルのニオイがします(笑)。でも、そういうところが女性ファンが増えた一つの要素となるわけですね。11月11日に「東京ソラマチ」で行われた握手会も盛況でした。
「ファンの皆さんが大喜びで、用意していた整理券もなくなっちゃいましたね。吹き抜けのところまでお客さんがいらっしゃってて、ビックリしました」

――「ビックリ」といえば、書籍の中ではつば九郎がヌードを披露していますね!初めて見た時は衝撃的でした。

「そうなんです。滅多にお客さんに見せることのない、生まれたままの姿を見せておりますので、よかったらぜひ」

ファンサービスが旺盛なつば九郎。いや、むしろ頑張りすぎているような気もするが…。この他にもファンを楽しませるような仕掛けをしている。その一つが「まいまいく」だ。

つば九郎名物「まいまいく」

ファンにはおなじみかもしれないが、ヒーローインタビューの時につば九郎だけ、ちょっと変わったマイクを選手に差し出す。通称「まいまいく」(写真参照)

「実は、つば九郎の話では、一度も同じマイクを持ったことがないそうなんです。主に、全国のファン(マイク製造部隊)から送られてくるマイクを差し出しています。おたまをデコレーションした『おたまいく』や、お好み焼きを作る時に使う『三角ヘラ』を使ったマイクを使ったこともありますよ。それが非常に素敵なので、つば九郎に頼んで選りすぐりのまいまいくを数点ほど紹介させていだきました」

つば九郎は意外と苦労人だった…

つば九郎の人気ぶりが分かってきたところで、ここまで楽しそうにつば九郎について語ってくれた五十嵐さんが、急に声を低くしてつぶやいた。「ただ…、つば九郎は、明るくふるまってるように見えますが、本人(本鳥)に話を聞いてみると意外と苦労人なんです」

つば九郎が登場したのは、日本一になった翌年の1994年。この年、スワローズは4位に終わってしまう。当時のことについて、つば九郎サンスポの長崎記者との対談でこう振り返った。
「とうじは、のむらかんとく。のむらかんとくが『こいつのせいじゃないか』って、ゆにほーむのぺっとまーくをゆびさしたときは、くびをつろうかとおもった」(「みんなで、えみふる!」より)

本気なのか冗談なのか分からないつぶやきだが、試合開始前から積極的に前に出て行って観客を盛り上げたり、ホームランが出たら全力疾走で外野のスタンド方面に走っていったりと涙ぐましい努力をし続けているつば九郎。さらに対談では、つば九郎スワローズのマスコットになったきっかけも明かしている。

「すみついたいえが、たまたま、じんぐうでした。そしたら、やきゅうをやっていた。みたことあるせんしゅばっかりで、なにをしていいかわからない。とりあえず、えらいひとに『ほーむらんだったら、でていけ』といわれて。さいしょはきんちょうしたよ。わたりどりなので、りょうしんはわたっちゃったけど…。かなしいかこをふっしょくするために、あかるくふるまっているんです」(「みんなで、えみふる!」より)

スワローズを盛り上げつつ、日本一を夢見るつば九郎。念願の「る~び~かけ」の実現に向かって、つば九郎は走り続けるのであった。(やきそばかおる

大好きな「る~び~」を片手に、嬉しそうなつば九郎