人々を魅了してやまない『ONE PIECE』(尾田栄一郎/作、集英社/刊)。主人公、モンキー・D・ルフィとその一味である「麦わら海賊団」たちの冒険を毎週楽しみにしている読者も多いでしょう。

 そんなルフィは、旧来の「俺について来い」系リーダーではなく、フラットな関係をベースとした新しい時代のリーダーであると述べるのが、社会学者の安田雪さんです。
 安田さんはルフィ白ひげ 信頼される人の条件』(アスコム/刊)の中で、ルフィという新しい時代のリーダーの比較対象として、世界最強の海賊団とも謳われる白ひげ海賊団船長の“白ひげ”(エドワード・ニューゲート)をピックアップし、新旧世代を代表する船長の言動・行動から、リーダーのあり方を述べています。
 ここでは白ひげに学ぶリーダーシップのあり方についてご紹介しましょう。(但し、これから『ONE PIECE』を読む人にとってはネタバレとなってしまう可能性もありますので、その点はご注意ください)

■家族にして大事にする
 白ひげが子どもの頃から欲しかったもの、それは「家族」でした。だから自分たちの部下を「息子」と呼んで家族のように扱い、また船員たちは白ひげのことを「オヤジ」「オヤジさん」と呼びます。
 ルフィの義兄エースもその一人。エースが最初に白ひげに会ったのは、白ひげの首をとるためでした。しかし、圧倒的な力でエースを退けた白ひげは次のようにいいます。

「おれの息子になれ!!!」(巻五十七 第552話)

 その後も、エースは白ひげの首を狙いますが、それを退け、広い心と深い愛情でエースに「おれを信じてもいい」ことを伝えます。そして、次第に信頼の絆が生まれていくのです。これこそ、リーダーと部下との相互信頼の究極の形と安田さんは述べます。
 この白ひげの一度“家族”になった者は、部下を家族として扱い、守り、能力を認めて接する態度は、家族型組織をベースとした従来のリーダーの形であるといいます。

■裏切られても部下を信頼する
 そんな白ひげのリーダーの本質がよく見える部分の一つが、ファンから感動を呼んだ白ひげの最期のシーンです。
 頂上決戦の最中、白ひげは自分の部下に裏切られ致命傷を負ってしまいます。しかし、それでも自分の身を捨てて部下を守ろうとする白ひげの姿に裏切った部下は後悔し、自分の命を犠牲にしようとします。
 ところが、部下に対して白ひげはこう怒鳴り飛ばすのです。

「子が親より先に死ぬなんて事が どれ程の親不孝か… てめェにゃわからねェのかスクアード!! つけ上がるなよ お前の一刺しで揺らぐ おれの命じゃねェ…!! 誰にでも寿命ってもんがあらァ…」(巻五十八 第572話)

 裏切っても子どもは子ども。自分が刺した傷で親がくたばっては、子どもはずっと後悔を背負うことになる。だから、おれは寿命で死ぬんだ。その白ひげの思いがこの言葉に詰まっています。
 自分が信頼した相手を、命を賭けて守り通す。これは、究極のリーダーシップであり、信頼されるために必要な力といえます。

ルフィ白ひげの共通点とは
 では、ルフィ白ひげ、この2人に共通する部分はどのようなところなのでしょうか。それは2つの信頼です。
 例えば白ひげの場合、出生のために愛情に飢え、自暴自棄になっていたエースが白ひげに出会い、家族となり、「白ひげを海賊王にする」という夢を持ちます。またルフィの場合も同様で、他者に夢を与え、仲間との信頼関係を築きます。
 ここには、今現在のその人に対する信頼――「人格的な信頼」ともう1つ、この人についていったら素晴らしい未来が待ち受けているのではないかという「未来の可能性に対する信頼」、この2つがあります。この両輪どちらが欠けても、リーダーには成りえません。

「この時代のその先をおれに見せてみろ!!!」(巻五十八 570話より)
 これは白ひげルフィに言い放った言葉です。一時代を築いた者が若い世代に「自分に新しい時代を見せてみろ」と言い、去ってゆく。これぞ、カッコいい大人だと思いませんか? 白ひげの死は衝撃的でしたが、一つの時代の築いた白ひげの引き際の見事さは、多くの人を魅了したのではないでしょうか。

 フィクションだからといって何も学ぶことがないということはありません。多くの人から支持を受けている『ONE PIECE』には、現実世界でも大事な様々なヒントが隠されているはずです。
(新刊JP編集部)

カッコ良過ぎる ワンピース“白ひげ”に学ぶリーダーのあり方