生活保護受給者のパチンコ遊興をめぐる議論が盛んになっている。

 コトの発端は昨年、大分県別府市がパチンコ店などに生活保護受給者がいないか調べて回り、遊興を繰り返した数人に1カ月間の支給停止処分を下しことだ。これが2015年末の市議会で明らかになって話題となった。厚生労働省は「調査は適切ではない」としているが、世間の反応は賛否両論。生活保護受給者による事件や新聞の投書などをきっかけに、再び問題がクローズアップされている。

■ギャンブルの罰に「支給停止」に賛否

 別府市では2015年10月、ケースワーカーら35人が市内のパチンコ店13店と競輪場を5日間巡回。発見した受給者25人に対して指導し、調査中に再び遊興していた9人の保護費支給を1〜2カ月間停止した。同市は前年度も同様の調査で6人の支給を停止している。

 これに「よくやった」「パチンコなんて言語道断」という賛同の声がネット上で湧き起こり、その一方で「個人の自由の領域」「人権やプライバシーを侵害している」と市への批判も噴出した。

 そんな中、2月に大阪府枚方市で「パチンコに行くため」に6歳の息子を全裸で風呂に閉じ込めたとして妻と内縁の夫が逮捕された事件をきっかけに「パチンコ禁止」賛同派の勢いが増加。夫婦は無職で子供3人と5人暮らし。妻が生活保護を受給しており、これが「生活保護でパチンコは悪」とする意見を喚起することになった。

「是非は別にしても、かなりの生活保護費がパチンコ遊興費に流れているのは間違いないでしょう。パチンコ店は生活保護費の支給日である毎月1日〜5日は高回収が見込めるため、出玉を絞るのが定番になっているほどです。近年は一般ユーザーのパチンコ離れが進んでおり、店側にとって生活保護費と年金が大きな収益源になっています」(パチンコ専門誌ライター)

■「パチンコなぜ悪い?」の投書に批判殺到

 また、3月2日付の『朝日新聞」では「(どう思いますか)1月12日付掲載の投稿『生活保護者の「遊興」調査は妥当』」との記事が掲載されたことがさらに議論を過熱させた。

 同紙に「パチンコや競輪は余暇を楽しむ遊興というよりギャンブル」「税金や社会保障費をしっかり徴収され、生活を切り詰めている年金生活者の私としては、違和感を覚える」との読者からの声が1月に掲載され、これに対する読者たちの反応をまとめたものだ。

 特に議論を呼んでいるのは「保護費でパチンコなぜ悪いの?」と題した64歳男性からの投書。

 男性は「旅行やゴルフに興ずるのが無理であろう生活保護者にとって、家に閉じこもってばかりいないためにも、パチンコなどはもっとも身近で手頃な楽しみであろう。依存し過ぎて生活を破壊することは、楽しむこととは別の問題」と反論。さらに「誰もが好き好んで生活保護を受けているわけではない。生活保護を生む社会構造こそが問題で、それは政治が解決すべき喫緊の課題である」とし、最後に「ギャンブル、なぜ悪い。調査と支給停止を『適切でない』とする厚労省の指摘は正しい」と結んでいる。

 これに批判が巻き起こり、「納税者は他人にパチンコさせるために税金を払ってるわけじゃない」「車やエアコンはまだ理解できるけどパチンコ代はどう考えても不要」など否定的意見が相次いだ。

 その一方で「気持ちは分かるけど市の対応は違法に思える」「人権侵害や差別につながる」「監視が強まれば困窮者を福祉から遠ざける」といった意見もある。だが、ネット世論的には「パチンコ禁止」を歓迎する声が多いようだ。

■パチンコは「最低限度の文化的生活」に入るのか?

 ここまで問題がこじれているのは法律の解釈が曖昧なためだ。

 同市が処分の根拠にしているのは、生活保護法第六十条に記された「(受給者は)収入、支出その他生計の状況を適切に把握するともに支出の節約を図り、その他生活の維持及び向上に努めなければならない」との条文。そして同二十七条の「保護の実施機関は、被保護者に対して、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示をすることができる」との文言だ。

 だが後者については「指導又は指示は、被保護者の自由を尊重し、必要の最小限度にとどめなければならない」「被保護者の意に反して、指導又は指示を強制し得るものと解釈してはならない」と付記されている。また、同法は「遊興費の支出」を直接禁じているわけではない。

「ギャンブルは『最低限度の文化的生活』に含まれるのか」「別府市の監視や処分は『最小限度』なのか」といった点で明確な答えが出ておらず、厚労省が「適切でない」と苦言を呈すなど議論が収まらない要因になっている。

 論争をよそに別府市は今年3月までに再び見回り調査すると明言し、さらに2016年度はケースワーカーを増員して調査体制を強化する予定。生活保護申請者に「遊技場に立ち入らない」とする誓約書を提出させることも続けている。この強硬なスタンスがさらなる賛否を呼んでおり、今後も激しい議論が続きそうだ。

(取材・文/佐藤勇馬)

佐藤勇馬(さとうゆうま

個人ニュースサイト運営中の2004年ごろに商業誌にライターとしてスカウトされて以来、ネットや携帯電話の問題を中心に芸能、事件、サブカル、マンガ、プロレスカルト宗教など幅広い分野で記事を執筆中。著書に「ケータイ廃人」(データハウス)「新潟あるある」(TOブックス)など多数

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