JR新宿駅で痴漢の容疑をかけられた都内大学職員の男性が、新宿警察署による取調べ後に地下鉄のホームから転落死した事件について、男性の母親が「息子は違法な取り調べによって精神的苦痛を受けた」などとして東京都警視庁)に対して1000万円の賠償を求めた訴訟の第2回口頭弁論が2011年8月30日、東京地裁(相澤哲裁判長)で開かれた。被告の東京都は「捜査に違法な点はない」として、全面的に争う姿勢をみせた。

 事件当時、都内の私立大学に勤務していた原田信助さん(当時25歳)は2009年12月10日午後11時頃、JR新宿駅の構内で「女子学生のお腹を触った」という痴漢の疑いをかけられた。信助さんは女子学生に同行していた男子学生らに取り押さえられたあと、11日未明まで新宿警察署で取り調べを受けたが、一貫して犯行を否認。むしろ、男子学生らから突然暴行を受けた被害者であると主張していた。信助さんは11日早朝、処分保留のまま新宿署から帰されたが、その足で地下鉄東西線早稲田駅に向かいホームから転落して死亡。遺書はないが、自殺だったとみられている。

 その1年半後の2011年6月、信助さんの母親である原田尚美さん(54歳)は「息子は違法な取り調べによって精神的苦痛を受けた」などとして、警視庁を所管する東京都に対して1000万円の賠償を求める訴訟を起こした。

 訴状によると、信助さんは新宿駅構内で面識のない男子学生らに突然飛びつかれ、馬乗りになられながら首元を何度も床に叩き付けられたり、腹部を蹴られたりするなどの暴行を受けたという。また、警察官らの捜査に違法行為があったと主張。黙秘権の告知をせずに被疑者として取り調べたり、任意捜査にも関わらず自由に帰宅することや電話することを認めなかったりしたなどとしている。

 これに対して東京都は、信助さんへの警察官の対応や、迷惑防止条例違反の被疑者としての書類送検について、「違法な点はない」と主張する準備書面を提出。8月30日の第2回口頭弁論で、その通り陳述した。

 信助さんの死後、迷惑防止条例違反の疑いで書類送検したことについて、東京都は、防犯カメラの画像解析や女子学生らの供述から、信助さんが痴漢行為を働いた疑いが強いと判断したと主張している。一方、警察官の対応については、「違法性がない」とする具体的な根拠が示されておらず、次回の口頭弁論で明らかにされることとされた。

 原告の原田尚美さん(54)は、口頭弁論後の報告会で「この国では、物証もないのに女性の申告ひとつで男性が被疑者にされてしまう。男性の人権について、警察は真剣に考えるべき」と憤った。また、訴訟を起こした理由について「息子の名誉回復のためと、警察の捜査により息子のような被害者を二度と出してはいけないという願いから」と述べた。

(三好尚紀)

原田尚美さん